F.T.B.W.
by fuzuki-2009
At The Cape
b0167670_19563285.jpg
b0167670_1956239.jpg

普段吸う銘柄ではないセーラム・メンソールを口に咥え火を点け、吸わずに放り投げると100m程の断崖をタバコは風にあおられながらゆっくりと落ちてゆく。
バスでようやく辿り着いたそこはユーラシア大陸の西の果て、ロカ岬。
僕はバックパックを隣に置き、崖際に腰を下ろして大西洋を見渡す。
遥かな水平線がなだらかに弧を描いている。

大学時代、快楽と虚栄心と着飾る事にしか頭が回らないクソのような学生だった僕がKと知り合ったのは同じ学部の講義だった。
お坊ちゃん育ちで気は小さいのに向こうっ気は強い。クールに見えて意外に熱く、お洒落なKとはサークルは違っていたが、妙に気が合って一緒に過ごすことが多かった。
当時のKの趣味は旅、カメラ、写真、音楽、シングルモルトウィスキー。僕はその頃、旅にも写真にもカメラにも何の興味も持っていなかった。
Kは大学の休暇を利用しては海外へ旅に出て土産話を僕に聞かせる。
「このカメラは小さいけどな・・・。」僕が一瞥すらしないカメラについて熱く語る。
Kの話はいつも聞き流すのが常だった。

良い奴だった。
Kは進路選びで涙を流して悔しい思いをしながらも念願だった大手の企業に見事合格した。
僕はやりたい事も無く、半ば現実逃避しアルバイトでお金を貯めてニューヨークへ語学留学すると決めた。

卒業すると都内に実家のあるKとはいつでも会えるだろうという気安さから徐々に疎遠になった。

それから数年後、仕事先に僕の自宅から電話が掛かる。
「Kさんのお母さんから。Kさん今朝亡くなったって・・・。」
どうしてだろう。悲しいとも感じなかったし涙の一粒も浮かんでは来なかった。この世から消えたと思えなかった。

今・・・。
僕は旅の猛者とは比較にならないけれど、それでも一人で数十カ国は旅をしてきた。
学生の頃は考えられなかった高価なカメラも手にしてきた。
素晴らしい写真は撮れなくても時々イメージ通りに撮れる事も増えてきた。
お酒は好きではないけれど強いからシングルモルトなら何杯でもいけるだろう。
旅もカメラも写真の事も考えるだけでワクワクする人間になった。
Kが生きていたら、二人でシングルモルトのグラスを重ねてどんな会話が出来ただろう。
今、たくさんたくさんたくさん話を聞かせたいのは僕の方になった。
Kは大好きなセーラム・メンソールを燻らせながら僕の話を聞き流さずに興味津々で耳を傾けてくれるだろう。

ごめんな、聞き流してばっかりで。でも少しは聞いてた事もあるぞ。

お前あの頃、「いつか絶対ロカ岬に行きたい。」って言ってたよな。

Nikon FM3A - cabo da roca, portugal



そう言えばお前、僕の留学中に一度ニューヨークまで遊びに来てくれたよな。
僕の帰国後、二人で中華街に行って上海蟹を食べてバーで飲んだっけ。あれがお前の最後の姿か。
せめてもう一度お前に会って話したかったなあ。当時のお前より今の僕の方が余程良い写真を撮るって事をお前に知らしめるために(笑)。
仕方ないか。まあ、見てろよ。
[PR]
by fuzuki-2009 | 2011-12-19 20:07 | Monologue | Comments(0)
<< Seasonal Dialogue Soap Bubbles >>